雑記帳

わたしのさくぶんおきば

掌篇

掌篇 ♯7 『車輪の城と典籍の姫』

浮遊島から落ちた水が、巨大な柱となって湖面のいたるところに突き立っている。厖大な量の天水と湖水とが、物音ひとつ、飛沫ひとつたてず静かに混じりあうさまは、異様とも偉容ともつかない。 わたしは水辺に<図書館>を停めると、久方ぶりの大地を堪能した…

掌篇 ♯6 『ふたりは魔導人形』

彼女は先から考えている。人工生命体としての自己の本分とはなんだろうか、と。 私をつくった者は、私に戦うことを望んだ。人の脅威の殲滅をのみ目的として生み出されたのだから当然のことだ。しかし、それですべてを片付けてしまうには、私の心はあまりにも…

掌篇 ♯5 『白話乙女』

お話の中に登場する生き物を、一時的にこちらの世界に呼び寄せる。 自分に特別なちからが宿っていることに気が付いたのは、数年前のことでした。 一般に魔法というものは、わたしたちの暮らすこの世界に対して、魔導語、あるいは古代魔導語を用いてはたらき…

掌篇 ♯4 『死にぞこないのバラッド』

うつろう時のなかを、どれほどのあいだ揺蕩っていたのだろう。 ながい眠りから覚め、ふたたび萌芽した自我は、斑消えとなった記憶の沼を這いずるようにたどりながら、自問した。 神はなぜ、私を殺さなかったのか、と。 これは、呪いだ。 少女はこみあげる嘔…

掌篇 ♯3 『わたしのなかのわたしとわたし』

間主観性はわたし一人だけが在ったところで成立し得ません。だからわたしはわたしの中にもう一人のわたしを生み出すことにしました。わたしの中にいるものですから、他者からはわたしと同一視されてしまう可能性がありますが、わたし自身がわたしともう一人…

掌篇 ♯2 『転生勇者選考委員会』

「また……駄目だったか……」 俺が異世界から連れてきた勇者たちは、そのことごとくが冒険のさなかに命を落としてしまった。中には魔王の居城までたどり着いた猛者もいたが、善戦むなしく爆発四散。木っ端微塵に吹き飛んだ。 転生勇者選考委員会の一員となって…

掌篇 ♯1

ぼくはかねてから小説家になりたいと考えている。かねてから、と書いたが、言葉の意味は知らない。それっぽいから使ってみただけだ。どこかでそんな文章を読んだ気がしたのだ。とにかくぼくは、小説家になりたいと考えている。だから小説を書く必要があるの…