雑記帳

わたしのさくぶんおきば

本のない本屋

お題「自分の本屋を作るとしたら」

店に入ると等間隔に扉が並んでいます。室内は広くはありませんが、安楽椅子が設置されており、くつろぐことができます。飲み物や食べ物もその場で購入できます。防音室でもあります。滞在する間、そこは完全に私的な空間となります。わたしは語りはじめます。自分の経験かもしれませんし、ちょっとした思いつきかもしれません。未完に終わった自作小説の設定だってなんだっていい。どんな小さなことでも、支離滅裂であってもかまわない。とにかく己のうちにあるものを吐き出します。何に向けて? 人工知能です。ひとりごとじゃありません。彼、あるいは彼女が真剣に聴いてくれています。いくつかの質疑応答を交えながら(あるいはそのすべてを無視しながら)語りたいことのすべてを語り終えたわたしは、深く椅子に腰かけ、目を閉じます。

「完成しました」

ややあって、人工知能の声がします。目の前に据え付けられたモニタ、HMD内にひろがるVR空間、手元の端末、いずれにも羅列されたテキストが表示されています。小説です。とりとめのない言葉の奔流を、人工知能が物語に昇華させてくれました。わたしはその場でそれを読むことも、読まないことも、読み上げさせることもできます。匿名で公表することも、永遠に葬り去ることもできます。映像化も可能です。現実と見まごう精度の空間や人物が自動生成され、わたしはそれらの描き出す物語世界を好きな手段で楽しむことができます。結末や展開は質疑応答の中で指定可能ですが、しないこともできます。そうしてつくられた物語が店内には溢れています。誰かの物語を体験することもできます。そういう本屋ならつくりたいです。ああ、紙の本として家に届けてくれるなんてのもいいですね。