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紫煙と芳香

日本の某都市、とあるアパートの一室。変わった身なりの少女と、ジーンズにシャツを着た青年がテーブルごしに向かいあって座っている。

「けむい」

「ん?」

「けむいそれ!」

「ああ……いや?」

「いや!」

「うむ」

「あとこれ!」

「コーヒー」

「にがい!」

「コーヒーだから」

「あまいのがよい」

「ジュースかな」

「ジュース?」

「うん、甘くておいしい」

「ちょうだい!」

「ない。買ってこないと」

「かってきて!」

「わがまま」

「いってらっしゃい!」

「いや、行くなんてひと言も」

「いってらっしゃい!」

「……うむ」

「わたしも!」

「くるのかよ」

「にがい!」

「のむのかよ」

 

というわけで『コーヒー&シガレッツ』(原題:Coffee and Cigarettes)を観ました。監督はジム・ジャームッシュ。この作品は11篇の短いやり取りによって構成されており、そのすべてに珈琲と煙草が登場します。どれも複数人での会話劇。ただ、一篇だけ一人二役で進行するものがあって、あれはちょっと感心しましたね。最初、別人かと思ったもん。なんとなく眺めているとなんとなく終わってしまうんですが、登場人物たちの関係や境遇、しぐさや台詞などをつぶさに観察することで面白みが増します。一番面白いのは出演している面々なのだけれども。イギー・ポップビル・マーレイが本名で出てきます。なにかありそうでなにも無い、あるいは本当になにも無い、豊潤な退屈が味わえるのではないでしょうか。どれも好きなんですが、わたしは『ルネ』と『ジャック、メグにテスラコイルを見せる』が特に気に入りました。