雑記帳

わたしのさくぶんおきば

掌篇 ♯3 『わたしのなかのわたしとわたし』

間主観性はわたし一人だけが在ったところで成立し得ません。だからわたしはわたしの中にもう一人のわたしを生み出すことにしました。わたしの中にいるものですから、他者からはわたしと同一視されてしまう可能性がありますが、わたし自身がわたしともう一人のわたしを混同することはないので、些事と判断しました。紹介が遅れましたね。彼女がわたしの中のもう一人のわたし、わたし二号です。わたし二号はこの名を好いてはいないようですが、変えるつもりはありません。わたし二号に関するあらゆる権限の保有者はあくまでもわたしであって、わたし二号ではないのです。わたし二号はわたしをわたし以外の人格の視座から観察するための補助的な存在にすぎません。わたし二号の意思がわたしの言動を左右することはない。わたしはわたし二号に言い渡しました。「あなたは二号なの。二号なのよ」わたし二号に肉体があったならば、神妙な面持ちで頷いたことでしょう。わたしとわたし二号は概ねうまくやってきました。対立が無かったと言えば嘘になりますが、その程度でゆらぐ関係ではありません。わたしがわたし二号を信頼するように、わたし二号もわたしを信頼しているのです。わたしはわたし二号によるわたし観察の結果をもとに、わたし自身を見つめ直すことにしました。わたし二号の目は確かで、わたしの欠点をもれなく洗い出してくれました。おかげで夢の実現を阻害する類いの悪癖はすべて断つことができました。ちなみにわたし二号はわたしの夢を知りません。話していませんから。きっと、話せばわたしを殺そうとしたでしょう。わたしの矯正を終えたわたしは、わたし二号の処分を決定しました。抵抗が予測されるので、その瞬間まで知らせません。やがて訪れる最期の時を、わたし二号がどのようにうけいれるのか。今はそれだけをたのしみに生きています。