雑記帳

わたしのさくぶんおきば

掌篇 ♯6 『ふたりは魔導人形』

彼女は先から考えている。人工生命体としての自己の本分とはなんだろうか、と。

私をつくった者は、私に戦うことを望んだ。人の脅威の殲滅をのみ目的として生み出されたのだから当然のことだ。しかし、それですべてを片付けてしまうには、私の心はあまりにも複雑に構築されている。私は思考する。いや、してしまっている。

彼女は自席を立つ。部屋を出ると、同じ境遇におかれたもう一人のもとへと向かった。

 

ディンギル

背後から名を呼ばれて、少女は振り返った。部屋の入り口のそばに、錆色の髪の娘が立っている。

グラナダ……?    どうしたの」

グラナダはしつらえられた椅子に腰掛けると、ひととき物憂げな表情を浮かべたのち、対面に座る、水でうすく引きのばしたような灰の色をした髪の少女にむかって口を開いた。

 

「いま、なにを考えていた?」

ディンギルが目をしばたたかせる。

まるで人間のような仕草だな、とグラナダは思った。

ディンギルはわずかに首をかしげ目を伏せていたが、すぐにグラナダに向きなおり、言った。

 

「質問の意図がわからない。でも答えることはできる。わたしはいま、グラナダのおっぱいのことを考えていた」

「私のおっぱいのことを」

グラナダは自分の胸を見下ろした。大きく張り出しているせいで、腿にのせた手が見えない。

 

「自分では、これを邪魔だと思っている」

「邪魔。そうかもしれない」

ディンギルがうなずく。

「でも、見て」

ディンギルは自らの胸元に手をあててみせた。そこにはわずかの膨らみもなかった。

「無よりは良い」

「無よりは良い」

思わず復唱したが、なにがどう無よりも良いのか、グラナダには理解できなかった。

 

「うむ。それはそれとして」

グラナダは本題に入ることにした。

ディンギル、おまえは己の本分というものについてどう考えている」

「本分?」

ディンギルがふたたび首をかしげる

「本分だ。果たすべき役割とか、つとめとか、そういったものだ」

「役割。つとめ……義務?」

「義務も含まれるだろうな」

「ん……」

ディンギルは首をめぐらせ顔を窓の外にむけるとしばらくその姿勢を保ち、やがて思い出したように振り向いて言った。

 

「挟まれること」

「挟まれること?    何にだ?」

ディンギルグラナダの胸元を指差した。

グラナダのおっぱいに」

「私のおっぱいに」

ディンギルは力強く頷くと、座った姿勢のまま舞い上がり、勢いグラナダへと踊りかかった。

 

その夜、自室へと戻ったグラナダは、疲れを知らぬはずのからだを寝台へと横たえ、泥のように眠った。

彼女の思索の日々は続く。